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1スレ目 170-183 「ど、どうしよう。柴崎ー」 困ったときの柴崎頼りというべきか、柴崎はいきなり郁に抱きつかれた。 女の同士の抱擁と言えば可愛らしいかもしれないが、170cm級の大女に抱きつかれると、むしろ巨大なクマのぬいぐるみと抱き合っているような気がしないでもない。 そんなことを言ったら馬鹿正直な郁はますます落ち込むであろうから、とりあえず柴崎は頭を撫でてやった。 「まずは落ち着きなさいって。ちゃんと聞いてあげるから」 お茶を一杯出してやり、柴崎もそれに一口つける。 少しだけ落ち着いたのか郁は大きな溜息をついてから、話し始めた。 「最近の堂上教官って変だよね?」 「そお?いつも通りの堅物じゃない」 そもそも郁の質問は心当たりがあるから訊ねているのは分かっていたが、実際の話、柴崎は変わりがないように見えた。 堅物のくせに純情で、自覚しているくせにそれを素直に認められない様は思春期の男子高校生かっ!と何度突っ込みたくなったことか。 観察する側としては、またとない獲物ではあるが。 以前と変わらず郁とは口を開けば喧嘩が始まり次第にエスカレートしていく様は油に火を注ぐ関係といえば分かりやすいだろうか。 まあ郁の友人としては、すったもんだの末に落ち着くところに落ち着いてくれて一安心なのだが。 「ちょっと前の飲み会だって二人でいい雰囲気だったじゃない」 丁度、堂上班と柴崎の休日が重なった先日、小牧が外に一緒に飲みに行かないかと郁を誘ってくれたのだ。 以前に男三人だけで飲んでいることを郁が羨ましがったのを覚えてくれていたようで、話を聞きつけた柴崎と一緒に参加した。 確かあの時は飲みすぎた郁を心配し、堂上は郁と先に帰ったはずである。 というか、そう仕向けた。 あの時の不服そうな堂上の顔はなかなか傑作だったのだが、それはとりあえず心の隅にしまっておく。 「良くないよ。あの後が問題だったんだから……」 思い詰めたように俯く郁に、柴崎はあらあらと意外そうに目を瞬かせた。 「じゃあ、聞かせないよ。事と次第によっては助けてあげるから」 それが堂上の弱みになるなどとは思うはずもなく、郁は喋り始めた。 あの後、三人と別れた郁と堂上は公園にいた。 あまりに足元がふらつく郁に強引に歩かせるよりは少し酔いを醒ました方がいいと堂上が判断したのだ。 ベンチに座らされると堂上はすぐに何処かに行ってしまった。 何処に行ったのかすら考えられず、ぼんやりとしていると、ほんのり上気した頬にひんやりとしたものがくっつけられて、郁は慌てて顔を上げた。 「これでも飲んどけ」 渡されたのはミネラルウォーターのペットボトルで、郁は素直にそれを受け取った。 飲みながら、そういえば昔、酔っ払った手塚にスポーツドリンクを渡してしまい、完全にノックダウンさせてしまったことを思い出した。 今更ながら悪いことをしたなぁなどと思いつつ、堂上の横顔を伺うと見るからに苦い顔をしていた。 その頃には大分酔いも覚めてきたのか、冷静に考えられるようになっていて、 「……教官、もっと飲みたかったんですか?」 だったら自分につき合わせてしまって、すみません、そう謝ろうとすると、堂上は素っ気無く突っぱねた。 「そうじゃない」 「でも……」 「いいからお前はそれを飲んでろ」 人が殊勝になってるのに、そんな言い方はないじゃん。 毎度のことながら、むうと脹れっ面をした郁に、堂上は不請顔になった。 してから、ああまたやってしまったと郁は後悔した。 どうして思っていることの半分も伝えられないのか、それがとてももどかしくて悔しい。 本当は自分につき合わせてしまったことを謝り、それでも一緒にいてくれることが嬉しいと伝えたかっただけなのに。 無意識についてしまった溜息に、堂上はばつが悪そうに視線を逸らし、 「言い方が悪かった。酒のことは本当に気にしなくていい。ただ、連れて来た場所が──」 「場所?」 そこそこ大きな公園には池もあり、その遊歩道には多くのベンチが並んでいた。 初夏とあって親しげに歩く恋人達の姿も多く見受けられた。 別におかしな場所では──と思った瞬間、郁は固まってしまった。 うわっ、なんて大胆。 っていうか、ここにいる人達って、みんな、そーゆー関係なのっ?! よくよく見ると親しげに歩く恋人達は、皆、大胆で見ているこちらが目のやり場に困ってしまうほど情熱的だった。 ベンチに座っているだけかと思っていたら、イチャイチャ抱きあっているだけでは飽き足らずキスまでしている者もまでいる。 もしかしたら、その先までしてしまっている者だっているかもしれない。 って、ここは外だぞ、いいのか、おいっ! そんな郁の突っ込みも虚し く、恋人達は人の目も気にせずにイチャイチャし続けていた。 これでは堂上も困惑するに違いない。 そもそも超堅物石頭の堂上がこーゆーことを許せるのかどうかすら怪しい。 今時珍しいぐらい硬派な堂上だから、こーゆーことは婚約や結婚をしてから、とか思っていても不思議ではないような気がする。 もしかしたら、そんなつもりで連れて来たとか思われてるのが嫌なのかもしれないなぁと郁は堂上の不機嫌な顔の理由を思い浮かべていた。 だから、いきなり手を握られた時は、自分の身に何が起きたのか理解できなかった。 反射的に見上げてしまった自分の顔はかなり間抜けだったろうが、それを斟酌する余裕なんてあるはずがない。 堂上はといえば、しれっとした様子で郁を見ようともしない。 もしかして、あたし、かなり酔ってるとか?でもって、これは夢とか……。 そう思えば思うほど、触れられる手の平の感触はリアルで、どう考えてもこれは現実で、気付いた瞬間、顔から火が出るんじゃないかと思うぐらい熱くなった。 ど、どうしよう。 反射的に振り払ってしまいそうになる自分を寸でのところで抑えたものの、動悸は激しくなる一方だ。 嫌ではないのだけれど、どうすることもできなくて、恋愛初心者の郁には、そのままでいることで精一杯だった。 でも自分達だって、そーゆー関係になったのだから、何れそーゆー機会が訪れるであろうことは予測していた。 それが自然の流れであるし、期待していないといえば嘘になる。 そっと肩を掴まれ、顔を上げて欲しいと顎に手を置かれてしまった。 ただ促されるままに顔を上げると、そこには当たり前だが堂上の顔があって、それだけで頭の中は真っ白になってしまった。 これからキスしちゃうんだと胸を高鳴らせているが、一向にそれは訪れようとしなかった。 堂上は呆れたように溜息をついて、 「……おい、こういう時は目を瞑るもんだろうが」 「で、でも……教官がどんな顔してキスするのか見てみたい──って、あ痛っ!いきなり、何するんですかっ!!」 「真面目な時に何を考えているんだ、貴様はっ!!」 思わず普段の叱り口調になり、堂上は慌てて周囲を見渡した。 静まり返った公園にはあまりに場違いな怒鳴り声だったことに気付いたようだ。 こうなると先ほどまでの色っぽい雰囲気は微塵も残っていない。 不貞腐れるように唇を尖らせた郁に、堂上の表情は険しいままだ。 だが、すぐに深い溜息と共に、 「キスしてもいいか」 その言葉に郁は不貞腐れていたのも忘れ、まるで魚のように口をパクパクとさせてしまった。 それを一々聞くのは反則じゃないのか、そう言い返したいのだが、言葉が出ない。 真剣な堂上の表情を前に、郁は小さく頷いた。 先ほどはああ言ってしまったものの、半分は正しくて半分は嘘だった。 実はあまりに緊張してしまって、目を瞑ることも忘れてしまっていたのだ。 だから今度は約束通り目を瞑って──思わず身体に力がこもってしまったのは仕方ない。 すると、やんわりと何かが唇に当たる感触がした。 ゆっくりと唇が離れていくと、ああ、これがキスなんだなぁと郁は胸が熱くなった。 堂上は照れくさいのか一向に視線を合わせようとしないが、それがちょっとだけ可愛く見えて、郁は好意を示すように堂上のシャツを掴んだ。 「…………いいのか?」 それに郁は頷いた。 恥かしいけれど、もう一度したいと素直に思った。 もっともっと堂上に触れて欲しいと思ったことは事実なのだが、いきなり舌が入ってくるのは思いもしなかった。 先ほどのキスなんて本当に可愛いもので、二回目のキスはそれとは比べ 物にならなかった。 頭がクラクラして、強張っていたはずの身体には何故か力が入らない。 気付けば堂上の手が背中に回されていて郁を支えていた。 その手が這い上がるように背中に触れられると、悪寒に似たぞくぞくっとしたものが背中を走った。 その瞬間、郁はあることに気付いた。 非常に重要で肝心なことに。 このままではそれにぶち当たることは確実で、それは何としても避けなければならない。 だって、そうしなければ、がっかりするのは堂上の方なのだから。 だから──、 「や──っ、」 微かに漏れた郁に悲鳴に堂上ははっとしたように身をたじろかせた。 そして狼狽した表情をそのままに、手を放した。 行為が嫌だった訳じゃないのだと郁が教える前に、 「すまん」 そう告げると、堂上はそれから一言も喋ってはくれなかった。 「それはまた……」 郁の話を聞き終えて、柴崎は気の毒そうに口を開いた。 「堂上教官もあんたの性格を知ってるんだから、ちょっと性急すぎたわね」 まあ、堂上からすれば彼だって健全な男子であるし、恋人というポジションをやっとの思いで確保したのだから、そういうことを望んだって間違ってはいないだろう。 今までよく我慢したもんだと逆に褒めてやりたいとぐらいだ。 「あの日から堂上教官、余所余所しくて……」 「そうなの? 今日も普通に怒鳴ってたじゃない」 「仕事の時は同じなのっ!でもそれ以外は二人っきりになりたくないみたいで、なっても、すぐにどっかいっちゃうし……話しづらいし、話しかけても会話は続かないし……」 原因はどう考えてもアレで、元気が取り得の郁にしては珍しいぐらいに気落ちしている。 無理をしても空元気の郁が、こうもしょんぼりとしていると何故かぎゅ っと抱きしめてやりたくなるから不思議だ。 今も柴崎は郁を抱きしめてやっている。 「そう落ち込まないの。一度ぐらいの失敗で落ち込むなんてあんたらしくもないじゃない」 でも、と反論する郁の不安は手に取るように分かった。 初めて好きになった人なのだ、例えどんな些細なことでも不安になるのは乙女としては当然の心理だ。 「……しかしさ、あんた、どうして拒んだりしたの? とっさのことで驚いたの?」 うっと言葉に詰まった郁には違う理由があるらしい。 どうしようかと迷った挙句、柴崎だからと白状した。 「私、あの日、いつもの着てたから……」 「何、もっとはっきり言いなさいよ」 「柴崎と一緒に買いに行ったじゃん!」 「……もしかして、勝負下着のこと?」 それに郁は頷き、柴時はあちゃーと天を仰いだ。 なんて直結回路の持ち主なんだ。 いやいや、そんなことは今更か……それにしても気の毒ね、あの人……。 それはちょっと前の出来事だった。 あの晩も風呂の脱衣所で当然のように服を脱ぐ郁に、 「ねえ、あんた、いっつもスポーツブラだけどさ、それ以外持ってないの?」 「だって大きくないし、必要ないじゃん」 そうじゃない、と突っ込みをいれたくなる欲求を抑え、 「大きさの問題じゃなくて、その格好で一晩共にするつもりなのかって話よ」 「ひ、一晩って……!」 思わずひっくり返った声を上げた郁は顔を真っ赤にしている。 なんて初々しい反応だ。 そんな態度を見せられるとますます困らせたくなる自分はちょっとSの毛があるのかもしれない。 「あんたね、何歳だと思ってるのよ。これが学生同士の清く正しい交際ならまだしも、あんた達は立派な大人でしょうが。そういう関係になったって自然なのよ?分かってる?」 「そ、それは、わ、分かってる……つもりだけど……」 話題にするだけでこんなにしどろもどろになられては堂上でなくても手を出すのを躊躇うかもしれない。 郁がどれほど色恋が不得意かは知っているし、堂上の性格を考えれば自重に自重を重ねるはずだ。 「……で、でも、そーゆーことって暗いところでするんでしょ?だったら見えないんじゃ……」 「朝になって色気の無い下着が落ちてたら興醒めもいいところよ。あんた、相手より早く起きれる自信あるの?」 「……ないです」 唯一の反論もばっさりと斬られ、郁はがくりと肩を落とした。 「別にそれをずっと着続けろって話じゃないんだし、一枚ぐらいは持ってた方がいいんじゃないの?勝負下着ってやつ」 「で、でも……下着売り場で選んで買ったことなんてないもん。それじゃなくても行きづらいし……」 まるで恋人に付き合わされる男のような発言だ。 とはいえ女の子コンプレックスの塊である郁にとって、下着売り場はその総本山に感じられるものなのかもしれない。 それこそピンクの生地に華やかなレースとリボン、まさに可愛らしいという言葉をそのまま表現したような場所が下着売り場なのだ。 しかもメーカー専用の売り場には必ず店員がいて手取り足取り世話をしてくれるのだから、郁の苦手意識は強いに違いない。 ちらりちらりと先ほどから視線を向けられているのは柴崎も感じてはいる。 これほど言いたいことを顔に出てしまう人間はお目にかかれないんじゃないかと思う。 「どうしようかなぁ。昼食を奢ってくれるなら、考えてもいいんだけど……雑誌に載ってたレストランとか行ってみたいなと思っているんだけど」 郁はあっさりそれで手を打ってきたので、頼みの綱だったのだろう。 自分達の昼食の値段からは少し高い店だったので、柴崎は渋る郁を強引に連れて店員のいる下着売り場に連れて行くと、店員と一緒に鬼軍曹の並み厳しさで下着を選んだ。 とにかくシンプルの一点張りの郁に、白地に草花のモチーフがふんだんにされたショーツとブラ、それにキャミソールを買わせることに成功したのだ。 それがまさかこんな悲劇を生む結果になるとは思いもしなかったが。 「……よく考えなさいよ。あの日、あんた外出届、出してなかったじゃない」 そう柴崎は言ったが、郁は分からないようできょとんとしている。 「だから、もしそういうことをする気があったならの話よ?堂上教官だったら、そういうことをしておくように先に言っておくんじゃないのかってこと」 やっと指摘された意味に気付いたのか、郁は口をあんぐりと開け固まった 。 柴崎が一口お茶を啜り終える頃になって、ようやく頭が動き始めたのか、 「じゃ、じゃあ、教官はそういうつもりじゃなくて、ただキスするだけだったかもしれないんだ……」 抑えきれなくて暴走ということだって可能性としてはあるのだが、それは 言わないでおいた。 「ど、どうしよう、柴崎」 「どうしようって言われても、あたし、堂上教官じゃないし」 「やっぱり怒ってるのかなぁ……」 「……どうしてそう思うのよ?」 「だって、自分からして欲しいって言ってきたのに、いきなり嫌がった りしたら、普通、怒らない?」 そう思う気持ちもあるかもしれないが堂上の性格を考えれば、豹変した態度は怒っていることには繋がらないだろう。 逆に性急すぎたと自分を責めているのではないだろうか。 損な性格だなと思うが、それが堂上の可愛いところでもあるのだから、困ったものだ。 「……仕方ないわね、とっておきの解決法を教えてあげる。言っとくけど、手荒いから覚悟しときなさいよ?」 容赦のない言葉とは裏腹に、にこりと笑った柴崎はとても愛らしかった。 無意識に出てしまう溜息に気付き、堂上は全てを振り払うように頭を振った。 こんな様子だから小牧に 「どうしたの?」 などと面と向って訊かれてしまうのだ。 理由は説明できるはずもなくて一度は突っぱねたが、この調子が続けば今度は的確に理由を指摘するに違いない。 ──分かったところで、どうしようもないのだが。 公園での出来事がショックでないといえば嘘になる。 あれほどはっきりと郁から拒否されることは珍しく、だからこそ自分のしてしまったことの大きさを自覚する。 驚いていたというよりは恐怖を抱かせてしまったのではないか──とも思わせる郁の顔が忘れられない。 自分は郁よりも年上でそれなりの判断は出来るつもりだと思っていたと いうのに。 その場の雰囲気に流されて年甲斐もなく舞い上がり、その結果、相手を怖 がらせてしまうなど──情けなくて言い訳も思いつかない。 あの日以来、自分の前に立つ郁の様子は不自然で、原因がそれであることは明白だった。 どうして以前は、あれほど無意識に頭を撫でることが出来たのだろう──そうされると、はにかむように表情を崩す郁を不意に思い出し、胸が締め付けられた。 収蔵庫の鍵を閉め、西日が差し込む廊下を事務室に向って戻ろうとした堂上は思わず足を止めてしまった。 笠原、と名を呼ぶ前に、先手を打たれてしまった。 「堂上教官!お話がありますっ!!」 見るからにいっぱいいっぱいの郁は自分の失態を如実に示しているようで、胸が痛む。 そんな顔をさせている自分が許せなくて、卑怯だとは分かっていたが、 「お前が気にすることじゃない」 悪いのは自分なのだから、そう心の中で続け、堂上は足早に郁の横を通り過ぎた。 ちらりと盗み見た郁の横顔は適当にあしらわれ、失望しているようにも見えた。 「教官! 待って下さいっ!!堂上教官──!」 階段の踊り場までやってくると、背後から必死に呼び止める声がした。 思わず足を止めてしまう自分は未練がましくて、ますます自己嫌悪を深くさせる。 耳を塞ぐように階段をかけ下りようとした、その時、 「堂上教官、避けて──っ!」 "待って"じゃなく"避けて"──? そういえば郁の声は悲痛というよりは絶叫に近いような……。 一体何がと振り返ろうとした瞬間、予想していなかった重みに身体がぐらりと揺れた。 そして、けたたましい物音と共に、そこで堂上の記憶はぷつりと途切れてしまった。 続く
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1スレ目 749-750 ホテルのレストランでディナーを楽しんだ二人は、部屋に戻るためエレベーターに乗り込んだ。 恋人としてのこの後の行動を必死に考えないようにする。もう幾度か体験したことでも、まだまだ恥ずかしさは拭えない。 特に会話もないエレベーター内は緊張を煽るような沈黙で満たされている。自分の心臓の音が相手に伝わってしまいそうな静けさなのに、会話で誤魔化すこともできない。 そんな雰囲気の中、突然エレベーターが停止した。同時に視界が暗闇に閉ざされ、郁はまともに動揺する。 「な、なに?」 「狼狽えるな」 何も見えない状況でも堂上の声は落ち着いていた。手探りで見つけたボタンを操作し、何やら話している。 どうやら停電のようだ。原因究明と復旧を急いでいるという。 「すぐ直る、心配するな」 そう言われても不安はなかなか拭えない。暗く狭い箱の中は圧迫感と恐怖心を煽るには十分過ぎるシチュエーションだ。 元々閉所恐怖症の気がある郁にとっては尚更悪い条件だらけ。 「俺がついてる」 不意に、手を握られた。 見えてるんじゃないかと疑いたくなるような適格さで、力強く、存在を主張するように。 さらに指まで絡められた。郁にも同じことを求めるみたいに、手のひらが密着する。 驚いて反射的に力が入り、堂上の手を握る。必然的に互いに指を絡めた、所謂「恋人繋ぎ」という形だ。 あたかもあのコンテナ内を再現するような場面に、彼女の体温が一気に上がった。見えないのに羞恥から顔を伏せる。 でも、酷く安心する。 堂上の手は大きくて暖かくて、不安を包み込んで隠してくれるような包容力があった。 心に広がるその感情に、郁は嬉しそうに笑った。 「なんだ、意外と余裕だな」 それを気配で察知したのか、拍子抜けした声が聞こえた。 「堂上教官がそばにいてくれるからですよ」 相手の姿が見えないというのは、時に人を大胆にさせる。 でなければこんなこと、直接口に出して言えないから。 「堂上教官の手、凄く安心するんです。握ってもらえるだけで、怖いとか、苦しいとか、全部消えてくみたいで。 あたし、堂上教官の手、大好きです」 返事はすぐにあると思っていたのに、待っていたのは沈黙だった。 あれ? なんかおかしいこと言ったかな? 不安になる郁が握る手に力を込める。それで悟ったのか、堂上は渋々と言った。 「……あまり可愛いことを言うな」 なんですかそれ、人がせっかく素直になったっていうのに! 郁が反論しようとした勢いは、後頭部に回された手に殺された。 「我慢できなくなるだろうが」 ぐっと押さえられ、唇が合わさる。そして舌を深く入れられた。 密室とはいえエレベーター内。しかもいつ動くか、扉が開くかもわからない状態なのに。 郁は少しだけ抵抗したが、堂上がしてくれるキスに抗えるはずもなく、程無くして彼の背中にすがりつくように手を回すことになる。 堂上に教えられたことを思い出しながら必死に応える。 息継ぎのために離れた唇が、問いを囁いた。 「好きなのは手だけか?」 明らかにからかうのが目的だ。鈍感な郁ですらそう思う質問に答えが詰まる。 しかし堂上のそれは、からかいとは少し違っていた。 「俺は手だけじゃなく、お前が好きだよ」 本当に、暗闇は人を大胆にする。 意外と照れ屋な堂上に、素面でこんなことを言わせるのだから。 「あたしも……っ!?」 この勢いで言ってしまおうとした郁の言葉が途切れたのは、急にエレベーターが動き出したせいだ。 同時に眩しいくらい明るくなり、ほぼゼロ距離で堂上の顔を見ることになる。 突然のことに驚き、反射で身体を離してしまった。 「直ったのか」 事も無げに言う堂上のすぐ後に、ホテル内全域に流れているのであろう放送が、停電の原因と迷惑を詫びた内容を流す。 「いくぞ」 それが終わらぬうちに目的の階にたどり着いたエレベーターから、デートに似つかわしくない速さで堂上が降りる。 繋ぎっ放しの手を引かれる形で、郁も続いた。 その手は、ベッドで合わせた肌のように熱かった。
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「……教官……堂上教官……っ、」 ああ、もうすぐ目が覚めると自覚しつつある頃、聞き覚えのある泣き声が聞こえきた。 図体はデカくて、ガサツで短絡的で乱暴者くせに、お前はどうしてそう泣き虫なんだ。 そんな風に泣かれたら、俺が守ってやらなきゃならんと思っちまうだろう が。 ゆっくりと目を開けると、やはりそこには泣きじゃくる郁がいた。 酷い泣き顔を気付かないぐらい動揺しているということなのだろう、そっと頭を撫でてやると郁は驚いたように顔を上げた。 「堂上教官っ!?目が覚めたんですね!!…………よかったぁ」 ほろほろとまた泣き出した郁を抱きしめようと堂上は身体を起こそうとした。 微かにだが全身に打撲のような痛みを感じ、 「笠原。一体、何が起こったんだ?」 思い出そうとしても、何が起こったのか全く思い出せない。 すると郁はばつが悪そうな顔をし、 「ええと、あの……何度呼んでも教官、聞いてくれないから、あたし追いかけようとして……それで、ちょっと弾みがつきすぎたみたいで……」 いつもの紋切り口調からは想像もできない歯切れの悪さで、堂上は訝しげに郁を見つめた。 すると郁は一度言葉を詰まらせた後、 「階段を下りようとした時に踏み外して、そのまま教官に……」 そこまで説明されて、堂上は呆れたように溜息をついた。 ようするに、飛び込んできた郁の重みをかわすことも受け止める余裕もないままに堂上は郁と階段を転げ落ち、案の定、下敷きになったというこ とか。 ふと見渡せば、ここは救護室であるから郁と共に運び込まれたのだろう。 なんたる失態。 皆が笑う顔が目に浮かび、無意識に堂上の表情は険しくなった。 流石の郁も自分のしてしまったことの重大さに気づいているのだろう、先ほどから一言も喋ろうとしなかった。 「お前は怪我をしてないんだな?」 「えっ、はい、無傷です」 「だったら気にしなくていい。元々の原因は俺にある」 己の運の無さを示されたようで面白くないが、郁が無事ならばそれで良かった。 だが郁は違っていたらしく、 「教官のせいじゃありません!あの時だって、あたしが勝手に勘違いして……!」 身を乗り出してきた郁に、思わず堂上は身を引いてしまった。 しかし郁の表情は真剣で、このまま有耶無耶には出来そうにない。 「い、嫌とかじゃなかったんですっ!本当にあたし……!!」 そんな郁の態度に堂上は負けた。 どんなに逃げたところで、この一本気な娘は無かったことになどしてくれるような性格の持ち主ではなかった。 白黒はっきりさせたがるということは自分が傷付く可能性だってあるというのに、それでも郁はそれを望む。 それぐらい長い付き合いで分かっていたつもりなのに、まず逃げてしまう自分に堂上は自嘲するしかない。 「分かった。お前の言葉を信じるから、少し落ち着け」 優しく肩を叩いてやると、郁は安心したように小さく息を吐いた。 そのまま肩に手を置き、郁の頭を胸元に当たるように抱きしめる。 「でも俺も性急すぎた。怖かっただろう?悪かった」 それもまた間違ってはいないはずだ。 そう思う堂上に、郁は思わず顔を上げ、 「ち、違うんです!あの日は勝負下着を付けてこなかったから……!!」 「…………勝負下着?」 郁には不釣合いな言葉に、堂上は思わず反芻してしまった。 郁の表情はみるみる変化し、すぐに口を滑らせたことは分かってしまった。 堂上はそれでも意味を図りかね、無言のまま郁の返事を待っていると、 「だ、だから、そーゆーことをする時は、そーゆー下着じゃないと駄目だって柴崎に言われてて……それで、あの晩、あたし、教官がそーゆーことをしたいのかなと早とちりしちゃって……」 ずるずると芋ずる式に白状する郁を前に、堂上は冷静でいられる自信が持てなくなってきた。 まさか、そんな風に郁が考えていたとは。 正直、あの時の堂上には、その先など考えもしていなかった。 そう言われてしまうと本当に切羽詰っていたのは自分の方だったのではないかと思えてくる。 顔が真っ赤になっていくのを自覚してしまい、堂上は見られたくないとばかりに返事もせずに、そっぽを向いてしまった。 「……教官?」 「分かった。だから、もういい」 その話には触れないでくれ。 それ以上、触れられたら、そんなことで悩んでいた郁を想像して本気で可愛いと思ってしまう。 それでなくとも、こんな風に傍にいるのは久しぶりで、もっと触れたいという気持ちが騒ぎ出しているというのに。 それを気付かれたくないとばかりに強引に郁を抱きしめると、まだ言い足りなそうではあったが、結局は抱きしめられることを選んだようだ。 良かった。 このまま有耶無耶にしてしまおう。 ──そんなことを考えていたバチなのか、堂上はぐいとシャツと掴まれる感覚に気付いた。 反射的に見下ろしてしまうと、腕の中で郁が不満そうにこちらを見ていた。 いきなり視線が合うとは思ってもいなかった堂上は動揺を隠せなかった。 「だったらここでやり直しませんか?その先だって教官がその気なら……あたし、する覚悟はありますから」 反復するように郁の言葉を堂上は心の中で呟いた。 やり直す?何をだ。何を。何を覚悟してるってんだ──、 「バ、バカなことを軽々しく言うなっ!ここを何処だと思っとるんだっ!!」 郁の言いたいことを理解は出来たものの、到底受け入れられるような話ではない。 動揺する堂上を尻目に何故か郁は冷静で、 「でも定時はとっくに過ぎちゃってるし、寮の門限にも間に合わないし、今夜はここに泊まるつもりでいました」 時計を見ればもうすぐ日付が変わろうとしていた。 寮はどうしたのだと訊くと小牧が上手く取り成してくれたと教えてくれた。 気心の知れた友人が楽しそうに笑っている姿を思い出し、堂上は面白くなさそうに顔を顰めたが、それでも有能な小牧のことだ、そちらの心配は無用だろう。 それに郁の様子を見る限り何を言われても堂上の目が覚めるまで付き添うつもりでいたに違いない。 どうせ只の脳震盪だったろうに──自分も心配性だが、郁も似たようなものではないか。 堂上は呆れたように溜息をつくと、 「…………やっぱり堂上教官はあたしとはしたくないんですか?」 その溜息を郁はそう捉えたようだ。 見るからにしょんぼりと様子に、思っていることが手に取るように分かってしまった。 どうせまた胸が小さいとか腹筋が割れているとか女らしくないとか──そんなことを気にしているのだろう。 堂上から見れば、普段の言動があまりに漢らしく相殺以上に割を食っているだけで郁は十分に女の子だった。 髪からはシャンプーのほのかな香りが鼻をくすぐるし、日に焼けた肌は健康的で触れると驚くほど柔らかい。 そして手を握られるだけで緊張しているのが分かってしまうぐらい初々しい反応は女の子以外の何者でもないだろうに。 「そうじゃない。ただ、こんな風に流されて関係を結びたくないだけだ」 「別に流されてはいないと思うんですけど……ちゃんと覚悟はしてきましたし……」 どうやら郁にとっての覚悟とは勝負下着を付けてきたということらしく、胸元に手を当てる郁の姿は妙に微笑ましい。 思わず緩みかかった堂上の自制心を郁は簡単に真っ二つにした。 「それに……あたし、今夜は教官から離れたくないみたいなんです」 きっと頭の打ち所が悪かったのだと堂上は思った。 そうでなければ、こんな風に簡単に流されてしまうなんて、あるはずがない。 なんて頭の悪い言い訳だと自覚しつつも、そうでもしなければ自我を保つ自信すらなくなってしまいそうだった。 膝の上に跨ぐように座らせ、やんわりと唇を奪うと郁は苦しそうに息を漏らした。 その僅かな吐息すらも勿体ないとばかりに堂上は更に深く口付けを求める。 狭い口内を舌で突付き、歯列をなぞる。 ぶるりと震えた郁の身体をしっかりと抱きかかえ下唇を甘噛みし、もう一度口付けを交わすと、今度は舌を吸い上げた。 その一つ一つに初々しく反応する様は堂上の情欲を煽る。 首筋をなぞるように舌を這わせつつ、シャツのボタンを外すと、反射的になのか郁の手が胸元を隠した。 「あ、あの……教官、笑わないって約束、忘れないで下さいね」 そこまで恥かしがることではないだろうに。 ちらりと見えたキャミソールは白地に草花が施されていて確かに女性の下着という感じはするが、堂上には郁がそこまで気にする必要などないように見えた。 とはいえ、この場では郁を安心させることが先決で、堂上が力強く頷くと、郁もゆっくりと両手をシーツの上に置いた。 郁のシャツも追うようにシーツに落とされると、そこには月明かりに照られた下着姿の郁が見えた。 「よく似合ってる」 そう告げると、郁は安心したように安堵の息を漏らした。 実際、本当に困ったぐらいにその下着は郁に似合っていた。 しかも自分の為に着てきてくれたのだから、嬉しくないはずがない。 ──参った、こんな姿を見せ付けられて、最後まで冷静でいられる自信が持てなくなってきた。 「…………堂上教官?」 手が止まってしまったことを心配しているのか、郁の表情は不安の色が見て取れて、堂上は違うと首を横に振った。 「お前があんまりもにも女の子だから、少し驚いただけだ」 「お、おんなのこって……!」 堂上の挑発に簡単にひっかかった郁は反射的に噛み付くように口を開いたものの、肝心の言葉が出ないようで、口をパクパクさせるのが精一杯のようだ。 この様子ならば緊張も幾らかは収まっただろう、詫びるように頬に唇を落とすと郁は一瞬驚いたものの、おずおずと手を伸ばし、堂上のシャツの裾を掴んだ。 仲直りということらしい──堂上は小さく笑いつつ、郁の短かな髪をかき分け、うなじに軽く歯を立てて吸い付いた。 郁は喉を振るわせるように息を漏らしたが拒むようなことはせず、耐えるように堂上の行為を受け入れてるようだった。 キャミソールの上から乳房というには物足りない大きさの胸に手の平を置いてみる。 撫でるように触れていると、郁はくすぐったそうに身を捩じらせた。 「脱がすぞ? いいんだな?」 今更何を確かめているのか。 今ならば戻れるなどと、そんな甘い考えを抱いてしまっているからなのだろうか。 そんな堂上の気持ちとは裏腹に、郁は小さく頷き、堂上の動きを手助けした。 キャミソールを脱がし、ブラジャーも外させる。 反射的に隠そうとする郁の手を掴み、堂上はそのささやかな胸の蕾に吸いついた。 舌でころころと転がしてやると、少しずつ硬さが帯びてくるのがはっきりと分かる。 掴んだ郁の手は自分の肩を置くように教え、空いた手の平で胸を鷲掴みにした。 「あっ、やっ……教官……っ」 初めて知る快楽に郁はふるふると頭を横に振っていたが、身体は驚くほど正直に反応している。 ほんのり上気した肌に、まるで自分の所有物だといわんばかりに赤い跡をつけてしまう自分は、これほど独占欲が強かっただろうか。 それとも相手が郁だからか──偶然出会い、その凛とした背中が未だ忘れられなかった特別な相手だからなのか。 想いの強さなら堂上とて負けはしない。 この手で守り、この手で育み、共に歩みたいと願う気持ちは他の誰よりも強いつもりだ。 「笠原、」 戸惑う郁に口付けてやりながら、堂上の手はするすると郁の下腹部に移動する。 括れた腰のラインを滑り落ち、もどかしそうにパンツスーツのパンツとショーツを腿のあたりまで下ろした。 確かめるようにゆっくりと足の付け根に手を入れると、そこはうっすらとだが湿っていた。 ぴたりと閉ざされた割れ目を中指で何度も擦ってやると、徐々にだが湿り気が増してきたような気がする。 初めてにしては感度が良すぎる郁は目をぎゅっと瞑り堪えているようだった。 安心させるようにと啄む口付けをしてやると、郁もまた自分からそれを求めてきた。 たどたどしい口付けを交わしつつ、堂上は愛液に濡れた指先で厚くなった花びらを開かせるように指を這わせてみた。 郁が驚き反射的に身体を退かせる前に畳み掛けるように堂上は無骨な指を割れ目に差し込んだ。 まずは入り口付近をくすぐるように触ると、想像していた通り異性を知らない郁の中はかなり狭く、指が一本でもきついぐらいだった。 それでも慣らすように時間をかけて内部を解すように指を動かす。 指を二本にしても大丈夫になった頃になると、空いていた手を使い、同時に恥毛に隠れる小さな突起を探し当て、同時に刺激し始めた。 「やっ、堂上教官──っ」 鈍い痛みと同時に、鋭い刺激が交じり、郁は慌てるように身体を強張らせた。 視線は戸惑いを強く滲ませているものだというのに、何処か甘みも注していて、それが酷く艶めいて見えた。 強引に内部を刺激するよりは最も敏感な部分を刺激した方が郁も素直に感じることができるはずだ。 愛液で濡らした指先でくすぐるように突起を撫で、郁が十分に感じてることを確認してから、そっと包皮を剥き、新芽を指の腹で摘んでやった。 効果は覿面だったようで、郁は髪を振り乱し、戦慄いた。 腰から手を回している堂上に支えてもらわなければ、立っていることもできない。 それでも堂上は止めようとはせず、更に手の動きを早めた。 少しずつであるが、郁の弱い場所が分かり始めてきた。 「あっ、あっ、あーーーっ!!」 抑えきれない甘い声を上げ、郁は身体を大きく震わせた。 がくがくとまるで人形のように揺れ、堂上の肩に顔を押し付け、荒々しいままに息を吐いている。 愛液でびしょ濡れになった指を引き抜き、堂上は郁の汗ばんだ背中を落ち着かせるように規則的に優しく叩いてやった。 初めてにしては上出来だろう。 そしてベットの上に乱雑に投げ出されていたシャツを郁に羽織らせてやった。 「堂上教官……?」 「今日はこれで終わりだ」 「終わりって……。でも、まだ、」 「このままする訳にはいかん」 それぐらいの良心は堂上にだって残っている。 無責任な行いで傷付くのは郁の方なのだから。 すると郁は思い出したようにパンツのポケットからハンカチを取り出し、 その中から何かを堂上に差し出した。 差し出された堂上はぎょっとした顔で郁を見つめたが、相手はあっけらかんとしていて、堂上はますます混乱した。 それはどう見てもコンドームだった。 一体どうしてそんなものを郁が持っているのか──普通は持っていないものではないのか。 それとも郁のぐらいの歳ならば持つのは常識なのだろうか。 いや、そんな馬鹿な話があるか。 迷いに迷った挙句、堂上は恐る恐る訊くと、 「柴崎が一つぐらいは持っておきなさいって、くれたんです」 してやったりと微笑む柴崎の表情を思い浮かべ、堂上は頭を抱えたくなった。 これでは筒抜けもいいところだ。 恐るべし柴崎。 可愛い顔をして、性格は小悪魔そのものだ。 興味津々といった様子の郁を前に、堂上の顔は一向に晴れそうになかった 。 このまま柴崎の思惑に乗るのも癪ではあるが、離れる気もない郁を前にここからどう拒めばいいのか。 誰か妙案があったら教えて欲しい。 大金はたいてでも買ってやるから。 「…………続き、したいのか?」 一瞬、郁は言葉に詰まったものの、小さく頷いた。 その仕種が可愛いと思ってしまう自分はかなり毒されているに違いない。 その毒がやっかいなぐらいに心地良いものだから始末が悪い。 そもそも、そんなことを改めて訊いている時点で既に遅いのだ。 態のいい言い訳を探している自分を認め、堂上は郁の背中に腕を回し、ベットに仰向けにさせた。 訳の分からない郁に考える余裕を与える前に、膝あたりまで下ろされていたパンツとショーツを脱がし、身体で足を開かせた。 ぐっと内腿を開かせると、流石に何をされるのか分かったのか郁は恥かしいとばかりに両手で顔を覆った。 その初々しい反応に気を良くするように、堂上は既に張り詰めた自身に避妊具を付け、解れつつある秘部に宛がった。 だが郁は触れられるだけでも怖いのか、身動き一つしようとしない。 まるで固まってしまったような郁に堂上はどうしたものかと、その頭を撫でてやった。 「すまん……痛くしないとは言えんのだ」 「わ、分かってます……あたしが丈夫なのは教官も知ってるじゃありませんか」 「ああ、そのくせ泣き虫なのもよく知ってる」 真っ赤になった耳たぶを甘噛みすると、郁はそれだけで感じてしまうのか、小さく声を漏らしてしまった。 思わず反応してしまった自分に更に赤面する郁の姿は世辞抜きに愛らしく、自身をいっそう滾らせる。 ゴム越しにぬるりとした愛液を擦り付けるように腰を動かしていると、それだけでも十分に気持ちが良かった。 痛みを伴う行為に及ぶよりも、このままで果ててしまった方が郁にとっては良いのではないかとそう思い始めた頃、 「……もう平気です……教官だから大丈夫ですから……」 郁は顔を隠していた手を堂上の背中まで伸ばすと、そこでぎゅっとシャツを握り締めた。 縋られるような、それでいて頼られているのだと分かる郁の態度に、心身がそれだけで満たされるような感覚を覚えた。 ああ、こんなにも自分はこいつに心奪われているのか──今更ながらそれを実感する。 そして同時にただ欲しいと思った。 湧き上がってくる純粋な欲求を僅かな理性で押さえつけ、堂上は自身をゆっくりと秘口に捻じ込んだ。 「やっ、あ、あぁっ──!」 頭では分かっていたのだろうが、実際はそれ以上のものだったのだろう。 郁は思わず悲鳴に似た声を上げ、それを必死に堪えるように唇を噛み締めていた。 郁の内部は堂上を向い入れるどころが排除するように侵入者を締め付けてきて、動くのも間々ならない有様だった。 安心させるように頭を撫でてやったり耳たぶや頬にキスをしてみたが、郁 は分かってると言うように、うんうんと頷くので精一杯のようだ。 やはり早すぎたか──ちらりとそんなことも脳裏を掠めたが、今更やめられるはずもない。 堂上はすまんと一言だけ詫びると、一気に郁を貫いた。 「やっ、あっ、はぁっ……どうして、こんなに熱……っ」 うわ言のように呟く郁に堂上は塞ぐように深い口付けをする。 唾液と唾液が交じり合うほど激しいキスをすると、郁はそれに応えたいの か、堂上の行為を真似をするかのように舌を絡ませてくる。 息苦しさから唇を離すと同時に郁の甘い吐息も漏れた。 惚れた相手が全身を赤く染め、潤んだ瞳で一心に見上げて冷静でいられる男などいるなどこの世にいるのだろうか。 ちりちりとした荒々しい熱情のようなものに背中を押されるように、堂上は動き始めた。 こちらを取り込んでしまうかのような圧迫感に自然と息が漏れる。 もう一度、繋がった感覚を確かめたくて、勢いよく腰を引き、もう一度捻じ込むように腰を押し付ける。 狭い内部を満たすように溢れる愛液が僅かな隙間から零れ落ちると、そこにはうっすらと朱色が交じっていた。 それは郁が誰も受け入れていなかった証であり、初めての相手に堂上を受け入れた証でもある。 無性に愛しさが募った。 奥深い場所で円を描くように襞に先端を押し当てると、郁は堂上の腕の中で身体を大きくしならせた。 その表情は痛みから歪んでいたが、繋がっている場所は馴染むようにねっとりと堂上を締め上げている。 その動きに思わず堂上は息を飲んだ。 うっかりすると、このまま簡単に果ててしまいそうだ。 郁のことを考えれば早く終わらせてやりたいのだが、少しでも繋がっていたのも堂上の本音で、何度も味わうように腰を打ちつけていると、徐々にその速さを抑えきれなくなってきた。 今にも吐き出したいという欲望そのままに、絡みつく襞に押し当てるように溜まっていた精を吐き出した。 開放感と共に言葉に出来ない満足感に満たされ、堂上は苗字ではなく郁の名を呼んだ。 「郁……」 もう一度、搾り出すような声でその名を呼ぶと、郁は嬉しそうに堂上を抱きしめた。 強い日の光に郁は目が覚めた。 そして見慣れぬ天上に、思わず跳ね起きる。 「……いたたた」 変な寝相でもしたせいなのか、腰が痛い。 どうしてと思った瞬間、昨晩のことを思い出した。 あ、あれっ、堂上教官はっ!? よく見れば郁が寝ていたベットは昨日堂上が寝てところの隣で、その堂上の姿は見当たらない。 シャツは着ており、毛布もかけられていた。 きっとこれは堂上がしてくれたのだろう。 ご丁寧に下着の類までベットの隅に整理されているのを見つけ、確かに柴崎の言うとおり肌色のスポーツブラとショーツでは興醒めしていたかもしれないと思った。 「って、そんなことよりも教官は──」 郁がベットから降りようとしたのと同時に救護室のドアが開いた。 「起きたのか?」 相手は堂上で、郁は状況が理解できずにきょとんと見上げてしまった。 すると堂上は困ったように視線を逸らし、 「……身体は平気か?立てるか?」 「はい、大丈夫です。立てます。……ちょっと足の間に何か挟まってるみたいで気持ち悪いんですけど」 郁としては正直に答えただけなのだが、堂上はそっぽを向くと口を手の平で覆ってしまった。 よくよく見ると、顔が赤いような……。 「堂上教官?」 「うるさいっ!いつまでそんな格好でいるつもりなんだ、早く服を着ろっ!!」 「えっ? ──や、やだっ!教官のエッチ!!」 「誰のせいだ、誰の!」 売り言葉に買い言葉で郁も無意識に噛み付いてしまったが、それどころではない。 今の自分は裸にシャツ一枚という姿だったのを堂上に指摘されるまで全く気付かなかった。 気まずそうに堂上が後ろを向いてくれたので、郁は急いで下着を付け、シワになってしまった制服に袖を通した。 着替えたのはいいのだが、今度は話すタイミングが見つからない。 とりあえず当たり障りのないところからと、 「そういえば教官、何処に行ってたんですか?」 「洗濯だ」 何を?とご丁寧に訊くと、堂上の表情はみるみるうちに強張った。 うわっ、これは落雷の一歩手前──反射的に目を瞑ってしまった郁だが、どんなに待っても雷は落ちてはこなかった。 逆に深々と溜息をつかれ、 「流石に汚れたシーツをそのままにはできんだろうが」 一瞬意味が分からなかったが、郁もようやく気付くと、しどろもどろになりつつも頷いた。 「す、すみせんっ。……血って落ち難くくありませんでしたか……?」 「別の布を下に敷いてオキシドールで濡らした布で上から叩けば、大抵のもんは落ちる」 「へぇ……そうなんだぁ……」 今度やってみようかなと純粋に感心していると、堂上は眉を顰め、 「あのな、お前……」 しかし続けようとした言葉を飲み込んでしまった。 珍しいとそんな堂上を郁は楽しげに見上げた。 その視線に気付いたのか、 「何がそんなに嬉しいんだ、お前は」 「だって嬉しいに決まってるじゃありませんか。あたしもこれで一人前の女なのかなーって、あ痛っ!もう、いきなり殴らないで下さいって、いつも言ってるじゃありませんかっ!!」 「何が一人前だ。柴崎に唆されただけだろうが」 「いいじゃないですか、昔から「終わり良ければすべて良し」って言うし」 「全然よくないわっ!」 結局、また拳骨を食らった郁だったが、終始堂上が不機嫌だった理由はすぐに分かった。 出勤時間なると、小牧には 「昨日は大変だったねえ」 などと開口一番に言われ、玄田には「仲直りしたのか」とからかわれ、柴崎にはすぐに感づかれた。 手塚だけは周囲のからかいの声にも全く理解できないのか首を傾げているのが唯一の救いか。 でも、これは誰が見ても針のむしろだわ……。 悪いことしたなぁと今更ながら思い至り、今夜にでも柴崎にまた相談してみようかなと本気で考え始めていた。 それが更に堂上の不機嫌さを増すことになるなど、郁が気付くはずもなかった。
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1スレ目 877-881 『天然』 二度目の外泊も、堂上は小奇麗なシティホテルを予約してくれた。 宿泊代を郁に負担させないことはわかっている。 郁は自分が大事にされてるのが嬉しいのと同時に申し訳ないとも思う。 ――だってあたし、こんなんだし。このあいだのスポーツブラは論外としても、色気もないし胸もない。 なんで、こんなあたしでいいんですか。 「真っ暗にしなくてもいいよな」 そう言われて郁が強硬に反対しなかったのは、今日は柴崎見立てのちゃんとした下着を着けていたのもあるし、 なんか引け目を感じていたのもある。だって、触って楽しい身体じゃないし。かといって、見て楽しいわけでもないけど。 二人で交互にシャワーを浴びた後、ベッドに並んで座る。 部屋の照明は落としたけど、ベッドサイドの小さな明かりだけ残してある。 堂上が郁の身体を引き寄せ、唇を重ねた。最初は軽くついばむように、何度も角度を変えて。 それから、深く。 キスしながら堂上が、郁の浴衣の合わせ目から手を差し入れる。 ブラの胸元のカットワークを指でなぞり、肩紐を肩から落とす。 「このあいだと違うな」 唇を離し、堂上が言う。 「あ、あたり前じゃないですか。このあいだが間違いだったんですってば」 「見せてみろ」 浴衣を脱がされ、ベッドに仰向けにされる。 「や、あの、恥ずかしいのであんまり…」 胸を隠そうとした手を堂上が引き剥がす。 薄いラベンダー色のブラとショーツのセットはカッティングが繊細で、郁の白く肌理の細かい肌を引き立てていた。 「綺麗だな。…脱がせるのはもったいないくらいだ」 「や、そんな」 「でも脱がす」 堂上は郁の背中に手を回し、一発でホックを外した。 「教官、ホック外すの上手ですね」 郁に他意はなかったが、堂上は軽く動揺した。その動揺に郁も自分が口にした言葉の意味を改めて考えてしまった。 ――そっか。教官は、あたしが初めての相手じゃないんだ。 すこし悲しげな顔をした郁に堂上は慌てた。 もちろん過去に付き合った女もいたが、それは郁が図書隊に入る前なわけで。でもそんなことを言い訳するのも変だ。 堂上は言い訳の代わりに、ブラを外した胸に唇を落とした。 郁は別に堂上の過去に嫉妬していたわけじゃなかった。 ――経験は無くても、せめて知識でもあったらもっと満足させてあげられるのかもしれないのに。 色気もなく胸もなく知識もないなんて。ああ、あたし、駄目だ。 余計なことを考えているあいだも、堂上の愛撫は続いていて、郁はだんだん頭がぼうっとしてくる。 思わず声が出そうになり、でも、それはやっぱり恥ずかしい。 「…んんっ…あ…」 ――なにか噛むもの。でも手元にはなにもない。どうしよう。どうしたら。 かすかに聞こえていた喘ぎ声が途絶え、堂上は顔を上げた。 「おまえ…なにを」 郁は涙が零れそうなほど潤んだ瞳で、自分の小指を噛んでいた。 「バカ!傷になるだろ!」 「だ、だって…恥ずかしくて。噛むもの、ないし」 唾液で濡れた指が唇から離れた。その唇も濡れて光っている。目尻から涙がつうっと流れ、堂上の理性が飛んだ。 「きゃ!…」 涙を吸い取られたと思ったら、ショーツが脱がされ、足が大きく開かれた。 「や、そんな」 指が入れられ、外も中も同時に刺激される。乱暴ではない。でも、激しい。声が我慢できない。 また指を噛もうとすると、手を堂上の背中に回された。 堂上の舌と唇が首筋から胸、さらに下へとなぞっていく。そして中の指はその場所を探し、そして、みつける。 郁の身体が跳ね、押さえ切れない声が上がった。 「や…いやあっ…きょう、かん…」 「大丈夫だ」 自分の身体の奥からなにかが響いてくる。指の動きに合わせて、それがどんどん大きくなり、津波のように押し寄せてくる。 「…っあ…!!」 堂上の背にしがみつき、しなやかな背を弓なりにし、頸をのけ反らせ、郁は声にならない声を上げた。 全速力で走った後のように荒い息を吐きながら脱力している郁に、堂上は優しく口付けた。そして耳元で囁く。 「痛かったら、言えよ」 膝が折り曲げられ、まだうねるような波を残している部分に熱いものがあてがわれた。 郁は本能的な怖さに腰を引きかける。でもそれを力強い手ががっしりと押さえつける。 「…あっ…んん…」 「痛いか?」 郁は頭を横に振る。痛みがないわけじゃない。でも最初のときに比べたらずっとすくない。 それよりも、しびれに似た感覚がそこから放射状に広がっていた。 それが最後まで到達すると、足りなかったものが満たされたように感じて、郁の瞳から、また涙が零れた。 それを堂上が舐め取る。 「無理しなくていいんだぞ」 「…だい、じょう、ぶ、です…。ただ…」 「なんだ?」 「すごく深いところに当たってて…。一番奥の、もうこれ以上は行けないところに、教官が、来てて。 それで、なんか、いっぱいになって、嬉しくて…」 郁が頬を染めながら、堂上の目をまっすぐにみつめて言うと、なぜか堂上は目を逸らした。 ――え。あたし、またなんかまずいこと言った? 怒ったような顔の堂上に、急に、噛み付くようなキスをされた。息ができないくらい激しい舌の動きに翻弄される。 そして堂上が動き始め、郁は上と下からの刺激に、もう、声を噛み殺すこともできない。 それでも自分の喘ぎ声には、どうしても慣れない。だから代わりに、その言葉を口にした。 「…あっ…きょう、かん…好き、です。…あんっ……好き、なんです…」 言えば言うほど、堂上の表情が苦しそうに見え、動きが速くなる。それがどうしてか、郁にはわからない。 郁の奥から、また波がやってくる気配がした。 「本…当です、から…。きょうかんがいて、くれたら…それだけ…で……ああんっ…!」 堂上の息遣いが激しい。自分なんかのために、こんなになってくれることが嬉しい。 そして、さっきとはまた違う大きな波が押し寄せてきた。 「だい、好き…です…」 その言葉と同時に二人は果てた。 まだお互いに落着かない息のままで、二人は寄り添っていた。郁の髪を堂上の指が優しく撫でる。 「…あたし、なんかいけないことしましたか?」 「…そういうわけじゃない」 堂上は仏頂面だ。 「あたしやっぱりこういうこと…勉強が足りないって言うか、作法がわからないっていうか。 柴崎にそういう情報、聞いてみますね。教官に満足してもらえるように」 「やめろ」 「だって、あたし色気とかないし。教官、つまらないんじゃないかと思って」 「本当にいいから、よせ。もう、これ以上…」 「これ以上?」 「知らん!」 堂上に叱られてそれ以上追求するのをやめた郁は、後日その日のことを柴崎に相談し、 「恐ろしい子!」と言われ、ますます訳がわからなくなったのだった。
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1スレ目 699-700 ベッドの上で向かい合っていたのが、キスに夢中になっている間にいつの間にか押し倒されていた。 浴衣などあってないようなもの。初体験時にいきなり上半身を剥かれた衝撃に比べれば、ゆっくり乱されていく今の状況などなんてことはないと思ってしまう。 エスカレートする舌の動きに翻弄されながら、身体のあちこちを撫でられる心地良さに心すら任せた。 堂上の大きな手が太股に伸びたところで、唇を離される。 「……そういえば、あのとき痴漢にはどこを触られたんだ?」 「ふぁ……?」 何の話かすぐに思い出せなかったのは舌の感触に浸っていたせいもあるだろうが、それ以上に郁にとって痴漢事件は過去の出来事であり、今更悔やむほど重要なことではなかったから。 なのに堂上は、なぜ今掘り起こすようなことをいうのか。 「なんで、今、そんなこと……」 「俺が触る前に触られたんだ。改めてお清めさせろ」 お清めって、そんな。 確かに変態の手など汚らしく耐えられるものではないが、あれからどれほどの時間が経っていると思っているのか。それでなくともあの日は風呂で念入りに洗ったというのに、この期に及んでさらになにを清めると。 そんなことを言い返す前に、堂上は郁の美しい片足を軽々と肩に担ぎ、日に当たらず白く輝く内太股へと唇を当てた。 「きょ、教官、そんな、今更」 「今更でもいいだろう、気分の問題だ」 「でも、パンスト穿いてましたし!」 「あんな薄い生地で何が防げる」 何を言っても止める気はない堂上の舌が柔らかな肌を滑った。郁 の若い肌は唾液を弾きながらも、濡れたそれに敏感に反応する。 「ぁんっ!やっ……」 「足も敏感だな。そんなに感じるのか」 当初は本当に清めるつもりだったのが、郁の素直な身体に堂上のなにかが刺激される。 それは子供染みた悪戯心に似ていたのかもしれない。ゆえに堂上は、その感情に従い足への愛撫を本格的にする。 太股から膝裏、ふくらはぎを焦れるような速さで辿り、震える指先へと到着するころには郁の呼吸はすっかり上がっていた。 「やぁ……きょうかん、そこは……」 僅かな抵抗など意味を成さない。それは郁もわかっているはずなのに、残った理性は抗わずにはいられない。 指の一本一本を丁寧に舐められ、間すら余すところなく愛される。その行為自体から堂上の想いの深さが伝わるようで、嬉しくて堪らない。 それに加え自慢の部位から快楽を与えられることに激しい羞恥を感じた。速く走れればそれでいいはずの部分なのに、彼に触れられただけでこんなにも気持ちいい。 「そんなとこ、舐めないでっ……」 「恥ずかしいからか?それとも気持ちいいからか?」 どちらも言い当てられ、頬に熱が上った。見つめてくる顔を見ていられなくて、きつく瞼を閉じ、両手で顔を隠す。 堂上は舐め尽くした足を下ろし、再び太股を撫で上げる。もう彼が触れていないところなど残っていなかった。 耳元に寄せられた唇が、低く言葉を囁く。 「俺だけのものだ。もう誰にも触らせるな。お前は、俺の手だけ覚えていればいい」 自分が好きな人のものになる。 その幸せを郁に教えたのは、堂上ただ一人だった。
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1スレ目 388-391その1 何故かその晩の恋人はすこぶる機嫌が悪かった。 その晩は特殊部隊の宴会で、かこつけた理由は先日昇進した隊員を祝うためだという。 郁からすればその理由も単に賑やかな席で酒が飲みたいからではないかとも思うのだが── 何かにつけて宴会したがる隊長とそのノリに付いていく先輩達を見ていると、そうとしか思えない。 とはいえ郁も賑やかな席は嫌いではないし、大半の参加者が食事よりも酒のウエイトが高く、好きなものを存分に食べることが出来るので、それなりに楽しみだったりもする。 惜しむならば、酒を飲み交わす堂上や小牧、手塚達を見ていると自分も飲めればよかったのにと思うこともあるぐらいだろうか。 あの輪に参加できない自分だけ除け者にされたような気がしてしまうからだ。 だから本来部外者である柴崎が参加してくれるのはありがたかった。 先輩達は柴崎の参加を諸手をあげて歓迎するし、郁も一人にならくてすむのだから一石二鳥だ。 ただ唯一問題があるとすれば柴崎は飲み過ぎるとキス魔になってしまうことだろう。 しかし絡む相手は酔っていても選んでいるようなので、それほど心配はしていないのだが、何故か柴崎が郁にキスをしようとすると周囲がどよめく。 キスといっても軽く唇が触れるぐらいものであるし、郁としては大したことではないと思うのだが──、 初めて付き合うことになった五歳年上の恋人は違ったようだ。 「教官、何怒ってるんですかー!?」 酒に弱い郁は一次会でリタイヤするのが常で、以前は直属の上官として、今は恋人として、堂上と基地へ帰る。 いつもは二人きりになれる僅かな時間だからと手をつないでポケットに入れてくれるというのに、柴崎が宴会に参加した晩はそうしてくれる気配すらないことに今晩気づいた。 ふてるようにスタスタと先を歩く堂上に郁はついていくのが精一杯だ。 それでも一人にはしないので、それなりに気遣ってくれてはいるのだが、呼びかけても会話らしい会話にならず郁には訳が分からない。 一体、堂上は何に怒っているというのか、全く分からない。 こちらを拒絶するような背中を見ていると、その背中が不意に歪んだ。 泣いているのだと気づいたのはそれから少ししてからで、泣いているのだと自覚すると途端に悲しさでいっぱいになった。 追いすがるように動かしていた足も気が付けば止まっていた。 堂上の背中がどんどん遠くなる。 もう手を伸ばしてもその背中には届かない、その心には永遠に届かないのかもしれない。 ひっく、としゃくり上げると、堂上は振り返るとぎょっとし、駆け足で近寄ってきた。 「こんなところで泣く奴がいるか、アホウ!」 「だって教官、呼んでもろくに返事もしてくれないし、あたしついていくのがやっとだし、それってあたしのこと嫌いになったってことじゃないんですか?」 すると堂上は酷くきまり悪そうにポケットからハンカチを差し出してくれた。 「──すまん。お前のせいじゃない」 「だったらどうして怒ってるんですか?」 堂上は言葉に詰まったように視線を反らした。 あたしに言えないことなのか、と違う意味でショックを受けると、堂上は違うと声を荒げた。 「違うんだ……ただ、その……今度から酒の席に柴崎は呼ぶな」 「どうしてですか?隊長や先輩達は喜んでるじゃないですか」 どうして堂上の機嫌が悪いことと柴崎が関係しているのか、郁にはさっぱり分からない。 首を傾げる郁に堂上は苛立ち半分諦め半分という表情をし、 「……お前が他の奴とキスしてるところを見せられて、俺が喜ぶとでも思うのか?」 「だって相手は柴崎ですよ?」 「柴崎でもだ」 そもそも郁の中では同性とのキスはノーカンだ。 学生時代から何故か異性よりも同性、しかも後輩から慕われることが多く、キスだって女同士のスキンシップの一つぐらいしか考えていなかった。 しかし堂上から見れば柴崎の郁へのキスは意図的であることはすぐに分かった。 あれは郁を盗られたことへの嫌がらせに違いないのだ。 郁にキスした後、彼女は決まって嬉しそうに堂上を見るのだから。 柴崎がどれほど郁を思っているのかは知らない。 だが他の同期との接し方が違うということは、彼女の中で郁の存在が特別あるということにはならないだろうか。 同性であるからこその友情と、決して異性のような繋がりを持たないことへの嫉妬──こちらを見る柴崎の視線を感じていると、そう思わずにはいられない。 こんな風に指摘されても郁は全く分からないというように首を傾げることも、柴崎は知っているのだろう、きっと。 「それに俺だと未だにガチガチに緊張するのに、柴崎相手だと平気なのが分からん」 「あっ、当たり前じゃないですか!」 さも当然のように反論する郁に堂上は途端に仏頂面になった。 身体を重ねるようになっても未だに自分からキス一つすることも出来ない郁の初心さが可愛いことも事実だが、自分以外の相手に平気な顔をしてキスされているとこを見てしまうと、やはり恋人としては面白くないのも本音だ。 「だって、お、男の人とキスするのは教官が初めてなんですからっ!そ、それに、す、好きな人とするのも……初めてだし……」 泣き顔だった郁の顔はいつの間にか熟れたトマトのように真っ赤になっていた。 結局最後はまともに喋れなくなり口籠ってしまった郁は拗ねるように堂上を見た。 郁からすれば睨んでいるつもりなのかもしれないが、堂上からすれば逆効果だ。 「え、あ、あの、教官、待って──」 「いやだ」 三十路過ぎた男が吐く台詞じゃないなと内心ぼやきつつ、戸惑う郁の唇を塞いだ。 ぐっと舌を強引に押しこんで逃げ惑う舌を絡め取り、吸い上げると、郁は苦しそうに眉を潜めた。 いつもならばこの程度で止めてやれるが、あんな破滅的に可愛い台詞を言われて、この程度のキスで収まりがつくはずがなかった。 狭い口内を蹂躙するように舐めあげて、貪りつくようなキスをこれでもかと味わった。 既にその頃になると郁の身体はがくんと力が抜けてしまい、ずるずると地面に座り込んでしまっていた。 ここが路上でなければ、そのまま仰向けに寝転がせて、更に郁自身を味わうことが出来ただろうに。 ゆっくりと唇を離すと郁の息は上がっており、その瞳は先ほどとは違う涙で潤んでいた。 こんな郁の顔が見れるのは、この世で自分だけだ──それが堂上の苛立っていた気持ちを静めてくれる。 そして求めるように、その唇から名を呼んでくれるのは自分の名であり──それがどうしようもなく堂上の欲情を煽るのを、この手に疎い年下の恋人はまだ気づいていなかった。 「──郁、」 そう名を呼ぶと郁の顔は一層赤くなった。 鈍い郁でも堂上が何を求めているのかは気づいたらしい。 何も言い返さないのは郁にとって了承と同じ意味だ。 地べたに座り込む郁を立ち上がらせると、堂上は今来た道を引き返した。
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1スレ目 584-590その2 夢の中で、君は 絶品と言われる食事もあまり喉を通らないまま終了し、部屋へと向う算段になった。 ここまで来てしまってはもう逃げることは許されない。 今晩は寝られないけれど仕方ない、郁はそう腹を括った。 ドアを閉めると同時に後ろから抱きしめられた。 首筋に堂上の唇が這うのが分かる。 耳朶を軽く噛まれ、郁は思わず小さく声をあげた。 くるんと身体を回転させられて堂上のほうを向かせられる。 と、腰と首を引き寄せられて唇を合わせた。 そういえばキスも久しぶりだな、などと思っていたとき、舌が入り込んできた。 優しいけど激しい舌は、郁が応答することを望んでいるように絡めてくる。 郁も慣れないながらも反応する。 「……んっ……ふっ」 声を堪えるようとすればするほど唇端から喘ぎに似た吐息が漏れ、絡めあう舌と混ざり合う唾液が淫靡な音を奏でてゆく。 反則とも思える舌使いをされた上に、堂上の右手は郁の胸を揉みしだき始めている。 郁の膝は限界を迎えてガクガクと震え始めた。 それに気付いた堂上は郁を膝から掬って抱き上げると、ベッドまで運んで下ろした。 顔の横に両手を付かれ、真剣な眼差しで見下ろされる。 その様子に居た堪れなくなった郁が先に口を開いた。 「ふ、服が皺に」 「すぐ脱ぐから気にするな」 「シャ、シャワーは」 「必要ない」 言い放つと堂上が再び口付けてくる。 さっきと同様に荒々しく唇を塞がれ、息をすることすら憚られるような舌で蹂躙される。 「……ぅんっ……くふっ……」 自分の吐息がまるで喘ぎ声のように響き渡る。 いや、実際堂上の舌に感じ始めているのは紛れもない事実だ。 キスに飽きた唇が、今度は首にまわる。 郁が感じる筋沿いを攻め立てるように、唇と舌が蠢く。 時折、耳を噛まれたり熱い息を吹き掛けられ、郁は気持ちよさから全身を震わせてしまう。 堂上の手は器用に郁の衣服を剥がして行き、あっという間に郁を下着姿に変えた。 「きょ、教官っ……灯り、灯り消してください……」 今はまだ明るい場所で全てを見られたことはなかった。 何度も身体を重ねてはいるが、やはりまだ恥ずかしさが先立ってしまう。 郁にとっては、「その行為は暗い場所で」がいまだデフォルトだ。 しかし堂上はそれを聞こえなかったものとしたのか、ベッドサイドにある調光スイッチには目もくれない。 「……教官っ……暗くしてくださ………んんっ」 再度嘆願した声は、途中で封じられた。 何度も口づけて郁の喉を殺しにかかる堂上の唇。 ひとしきり郁を味わったあと、いつものように真っ直ぐな視線で堂上が口を開く。 「……お前の頼みは聴かない」 「……でも、まだ恥ずかし」 「全部見せろ」 そのセリフと同時に、郁は上半身から全てを剥がされた。 ささやかな胸を捏ねるように揉まれ、その頂は口に含まれては舌で転がされていく。 明るい部屋で、全てを曝け出されていく恥ずかしさと言ったらなかった。 それでなくても女性としての魅力には程遠い体型の自分なのだ。 それが分かっているからこそ、灯りを消してくれるように言ったのに。 なんの羞恥プレイですか、これ。 そんな冗談も脳裏を掠めたが、口に出せるような余裕は郁にはなかった。 執拗に胸を愛撫する堂上の舌と歯と指は、郁の身体の芯までを悦ばせる術を知っていた。 乳首を軽く噛んでは甘く吸い上げる。 その度に、郁は小さな嬌声をあげるのだ。 「やっ……んっ…きょ…かんっ…」 胸を揉む間にも腰をなぞることを忘れない堂上の手が、郁のショーツに伸びる。 郁のそこが既に濡れそぼっていることは十分承知していた。 さっきから、郁が腰をもぞもぞと所在無げに揺り動かしていたから。 実際指を這わせると、布の上からでも判るくらいだ。 「――あっ、だめ、きょうか――ー」 郁が咄嗟に止めようとする前に、堂上の指が下着の中へ入り込んだ。 くちゅ、といやらしい音を立てて、そこは堂上を招き入れる。 「んんっ」 熱くて柔らかくて艶めかしいその中を指で玩ぶたびに、郁は悦びの声をあげる。 「ここだろ?」 郁の一番いい場所は、指が覚えている。 そこを探し当てて指の腹で擦り上げると、 「―――ああっっ」 さっきより一際大きな声で啼く。 その声が聞きたかった、と堂上は内心で呟いた。 3ヶ月もお預け食らわせられたのだ、このくらいの意地悪は許されるはずだ。 もう片方の手でするりと郁のショーツを取り払うと、堂上は郁の秘部へと顔を寄せた。 そうされた側の郁はもうパニックだった。 堂上がこれからしようとしている行為は、郁の限界を超える羞恥の絶頂だ。 必死で抵抗してみるものの、中に収まっている指の動きがそれを許してくれなかった。 堂上がそこを擦り上げるたびに、郁の理性 が削がれていくのだ。 「―――やあっ……み、見ないでくださ」 郁の声を無視して、愛液で淫靡に光るそこに舌を這わすと、苦くて甘い味が口中に広がる。 堂上は溢れ出る愛液を舌で掬うと、上にある小さな突起へと伸ばした。 既に充血して膨らんだその突起を軽く吸うと、郁の身体がビクンと跳ねる。 「――いや、――んんっ、ダメで……ああああんっ」 突起を吸うたびに、郁の中はキュッと指を締め付ける。 適度な強さでその行為を繰り返してやると、郁の膝が戦慄くように震えだ した。 この予兆は。 堂上はさっきよりもやや強めに指で擦り、突起を吸い出した。 「あああっ―――教官っ、……だめぇっ―――」 ひときわ大きな声で啼くと、郁が一気に脱力したのが分かった。 中はその逆に、指をキュンキュンと締めて来る。 蠢く中の余韻に浸っている間もなく指を抜き、堂上は自分の衣服を素早く脱ぎ捨てて、避妊具を自分に被せた。 ぐったりと呼吸を整えている郁に覆いかぶさると、まだ濡れている郁にあてがう。 そうされた郁の方は驚いて抵抗を試みた。 が、 「――ちょっ、待っ……教官、あたし、まだ」 言い終わらないうちに、勢い良く郁の中へと挿入していく。 「あああんっ」 絶頂の余韻はまだ残っていた。 いつもよりキツめの中は、堂上をこれでもかと締め付けてくる。 3ヶ月ぶりの自分としては、どのくらい持たせられるか甚だ自信はなかったが、一度イカせている郁を再度登り詰めさせるのはそんなに困難じゃないだろうと予想は出来た。 いつも通りゆっくりとした動作から始める。 さっきまでの激しい愛撫とは対極的な動きが、郁を焦れさせた。 自分から強請るように腰を押し付けてくる様子に、意地悪心がもたげだす。 「どうした?……腰が動いてるぞ」 言葉で攻めてみたことは無かったが、郁が締めて来たところを見るとこれも有効かもしれない。 「う、動いてなんてっ」 反論してみるものの、意思を失った腰が堂上の動きを求めていることは明らかだった。 「激しくしてほしいのか?」 「そ、そんなこと、無いですっ」 郁の反論は既に肯定だ。 堂上は腰に力を溜めて郁の奥を一突きした。 その途端、郁の身体が震えたのが伝わる。 やはり、もう一度イキたがっていることは明白だ。 「もう一度、イクか?」 「やぁっ……堂上教官っ……意地悪っ……」 「意地悪はどっちだ?さんざん焦らされたのは、……俺のほうだと思ってたが?」 「―――そ、それは―――ああっ」 言い訳をしようとした矢先、再度奥を一思いに突かれ、郁の理性は吹っ飛んだ。 「教官っ―――イカせてくださっ―――もう、欲し……」 『欲しい』とは最後まで言えなかった。 言葉の途中で、堂上の突き上げが激しくなったからだ。 熱い杭が打ち込まれるような感覚が、郁の身体を支配する。 その感覚は堂上の動きが激しさを増す程に郁を虜にしていく。 結合した部分からは、粘着質な音と肌がぶつかる音が響く。 いやらしく響く音は、耳を塞ぎたくなるほど恥ずかしいもののはずなのに、郁にはどうすることもできないのだ。 その音が、郁が堂上を誰よりも求めている証拠なのだから。 貫かれる度に最奥にもたらされる鈍い痛みにも似た快感が、徐々に頂きへと導き出す。 「あっ――だめ、……きょう、かんっ……あ、たしっ―――」 郁の言葉を聞くやいなや、堂上の動きは更に早まった。 そして一気に郁は登り詰める。 「だめっ……ああっ!………――――!!」 先ほどと同様に脱力すると、心地よい疲れが郁を襲ってきた。 だめだ、このままだと眠ってしまう。 この期に及んで寝顔を見られる恥辱と闘おうとした矢先、堂上が一度抜いてから郁の体制をごろんとひっくり返した。 腰を持ち上げられて、立ち膝にさせられる。 ―――え? 声にならない疑問は、次の瞬間に答えになる。 あろうことか堂上は、絶頂を迎えたばかりの郁を後ろから再度貫いたのだ。 「やぁっ!教官っ!あたしっ――――」 「俺はまだだぞ」 「そ、んなっ…だって、無理っ………ああああんんっ!」 それでなくてももう既に2回も迎えている。 これ以上は無理だというのに、堂上の動きは容赦がなかった。 「俺はイカせて貰えないのか?」 「だってっ――ああっ!―――これ以上はっ…あたしっ…うううんんっっ!」 ずぶずぶと出し入れされ、さっき打ち抜かれている場所とは違う場所を攻められる。 またも襲ってくる、あの波。 ―――ああ、あたしまたイッちゃう――― 絶頂の余韻の最中に、また絶頂を迎えたのは初めてのことだった。 そして、アルコールの力を借りずに意識を失ったことも、初めてのこととなった。 「めちゃくちゃ可愛いんですってね、教官の寝顔」 業務中に話しかけられたと思ったら、柴崎が何かを含んだような表情で近づいてくる。 なんだそりゃ。 誰が言ったんだ。 言おうとしたことが顔に出たのか、柴崎は訊く前に悪びれもせずに答える。 「笠原がそう言ってました」 コイツラが普段どんな話をしているのか、想像が出来ない。 きっと、俺のような男はからかいの種になっているんだろうと思うと、面白くないのも当たり前だった。 「知るか。自分の寝顔なんて見たことないからな」 不機嫌そうに答えると、柴崎が待ってましたと言わんばかりに堂上の答えを受け取った。 「そう、それなんですよ」 「何がだ」 「今回の笠原の悩みです」 「はぁ?」 自分の寝顔が可愛くないと思い込んでいる、だから寝顔を見られるような環境を作りたくない、故に教官ともお泊りなどできない。 これが郁の悩みの種明かしだったことを、柴崎から教えられた。 「大変だったんですよー。すっごくいい夢見てたのに叩き起こされて」 その所為で迷惑を蒙ったことを声高に言う柴崎をよそに、堂上は呆れるのを通り越して落胆している。 「アイツは……どこまでアホウなんだ」 「だから、言ってやってくださいね、あの子の寝顔がすっごく可愛いってこと」 「んなこと、とっくに知っている」 「でしょうねー。でも、毎日拝めるのは今のところ私だけですからね」 「なんだそりゃ」 「同室の特権」 堂上をからかうことに成功したことに満足が行ったのか、見事にウインクを決めたかと思うと柴崎は足早に駆けて行く。 その途中でこちらを振り返り、 「今度ご馳走してくださいねー」 と恩を着せることも忘れなかった。 失神してしまった郁に布団をかけてやりながら、堂上は今回の騒動を思い返していた。 寝顔のことを気にするなんてコイツらしいといえばそれまでなのだが、その所為で我慢させられていたのかと思うと、意地悪してやりたくなるのは許容範囲だろう。 流石に失神させてしまったのは悪かったと思うが、帰りたくないと思わせるくらいに疲れさせてやろうと思ったことは否定しない。 郁の寝顔は、無防備でその分とても無邪気だった。 時々眠りながら微笑んでいるときがある。 そんな時、自分が夢に出ていればいい、と思う。 「そうだ」 ふと、ひとりごちてズボンのポケットから機種変更したばかりの携帯電話を取り出した。 カメラモードに切り替えて、眠る郁を画面に収めた。 柴崎め。 これで俺も毎日拝めるぞ。 初めて郁を被写体にして撮った写真同様に、郁の寝顔は深いフォルダに格納されることとなった。 もちろん、幸せそうに眠っている郁は、まさか堂上が自分の寝顔を撮ったなどとは、夢にも思ってはいない。 了
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2スレ目85-86 「ああ、いたいた堂上。コレ、お前の番な」 そう言って問答無用に隣室の先輩に渡されたのは一本のDVD。 「イイぞ。かなり抜ける」 訊いてもいない感想付で渡されたソレは間違いなくAVだ。 女子寮と併設されているとはいえ、それこそ血気盛んな年ごろの男共が住む男子寮。しかも図書館員ならば女子と接することもままあるが、 基本男所帯の防衛員になれば、それこそ女子と話せることすら羨ましがられるぐらいに異性との接近は少ない。しかも三勤交代制とくれば、 この手のものに世話になる者も多く、そして数少ない幸運を掴んだ者が後輩に幸あれと置いて行った物が秘蔵のライブラリーとして貯えられ、 男子寮内でその手のものに困ることはなかった。 堂上とて健全な男子であるから性欲だって人なりに持っている。 しかし今現在、堂上は郁と付き合っている身であり、この手のものに世話になる必要はない。それこそ望めば惚れた女をこの手に抱けるのだ、 その喜びに勝るものなどあるはずがない。 だが「かなり抜ける」という言葉に全く興味を抱かないほど枯れていなかった。長い寮生活で、隣室の先輩のAV評価が高いことは知っている。 その先輩が「かなり抜ける」と評するもの──それはすなわち、かなりソソられるということだ。無意識にごくりと唾を飲み込む。どれぐらい 凄いものなのか、興味が湧かないはずがない。 ちらり脳裏に恋人の姿がよぎったが、 お前より勝る相手はいないが、これはこれでソソるもんなんだ! 男の本能がそうさせるんだ、すまん、郁。見逃してくれ──! 一人心の中で五歳年下の恋人に詫びつつ、DVDレコーダーにソフトをセットした。 内容は恐ろしいぐらい抜きに秀でたものだった。きっと寮内で出回れば貸出率NO.1になるだろうことは想像に難くない。 しかし同時に「マニアック」だった。 何故か出てくる女優の頭には犬や猫の耳のヘアバンドがしてあって、ご丁寧に尻にはシッポ付きのディルドーが刺さっている。コスプレもの ──なのかもしれないが、あまりに滑稽だ。それなのに抜けるのだから、男という生き物は単純だ。 思わず食い入るように画面を見ていると、犬の耳を付けている女優が「わんわん」と喘いだ。 その瞬間、堂上はデジャウを覚えた。一体何だったかと思い起そうとして──先日の犬騒動を思い出した。犬にされた郁は当初大いに憤慨し たが、理由を説明するとノリノリで犬になってくれた。その健気な素直さに、堂上が妙な気持ちを覚えるほどに。 そうだ、あの競争で勝利し、老女とのやり取り時、郁は嬉しそうに「わんわん」などと鳴き声まで付けてくれたのだ。 人間の妄想力は時として呆れるなぐらい豊かで困る。 もう堂上の頭の中では画面の女優と外面も体型も全く違うというのに、郁以外考えられない。 犬のように啼いて自分を受け入れる郁。 柔らかくしなやかな郁の体は堂上のものを受け入れれば、その体を大きく反らして、震わせてくれるに違いない。 その中は熱いぐらいに滑っていて、ただ入れているだけ気持ちがいい。 しかも狭い中を自分のもので捻じ込み、往復するように動かすのだ。その度に郁は啼いて応えてくれる。 思わず下腹部に溜まる射精感を堂上は慌てて押し止めた。 流石に妄想で出すのはマズイ。それはマズすぎるだろ、おい。 翌日、堂上は郁を必要以上に避けてしまい「あたし何かしましたか?」などと涙目で直球に訊かれ、ますます窮地に立たされる羽目になった。 終了
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1スレ目 584-590その1 夢の中で、君は いつもは熟睡をかまして朝まで目覚めることのない郁だったが、その日はなぜかふと夜中に目が覚めてしまった。 寝ぼけていた視界がはっきりするにつれ、見慣れない天井が郁の目に映し出される。 ここはドコだ?と考える間もなく、答えは導き出される。 ――ああ、そうか。 寮じゃないんだ。 その日は、堂上と付き合うようになってから迎えた、何度目かの夜だった。 身体を重ねる際の緊張は薄くなってはいるものの、最近はコトの後に一気に眠気が襲ってくる。 その状態の意味を理解できる身体になったのも、つい最近のことだ。 ああ、あたし、どんどん開発されてるなぁ、と乙女の発想としてはいささか似合わあい感想が頭を過ぎり、次の瞬間に恥ずかしさから頭をブンブンと振る。 その弾みで、隣で眠る堂上の顔が郁の目に飛び込んできた。 う、うわ――――! きょ、教官っ!その寝顔は犯罪です! 郁にしてみれば、声に出さなかっただけでも表彰モノだ。 堂上の寝顔は、この数年間郁が見てきた堂上の顔の中でも、メガトン級の破壊力を持っていた。 たまに見せる笑顔や優しい表情も捨て難いが、この寝顔に勝る顔はないのではなかろうかと思えるくらい、郁には魅力的に映った。 な、なんてか、か、か、可愛い。 こんな寝顔を見られて、ああ、あたし世界一の幸せモンかもしれない……。 30を目前にした男を評するのに「可愛い」はあまり褒められた文言ではないかもしれないが、大袈裟ではなく、本当に心からそう思った。 しかし、その刹那に思い当たる。 ―――あ、あ、あ、あたしは? 当たり前のことだが、自分の寝顔を見たことのある人間など居ない。 だから、自分がどんな顔で寝ているかなんて知らない。 知らないからこそ不安になる。 あ、あたし、マヌケな顔で寝てないよね? いびきとか、かいてないよね? あまつさえ、ヨダレなんか垂らして歯軋りなんてしてないよねぇぇぇー? 考えれば考えるほど、それら全部を寝ているうちにしているような気がして、郁は大声で叫びたい衝動に駆られた。 もし、堂上が今日の郁のように夜中にふと目が覚めて、横で寝ている郁の寝顔を見たりしたら。 そして、それが前述のような寝姿だったりしたら……。 ひゃ、百年の恋も醒めるっちゅーのっ! 自分の知らない顔を愛しい人に見せるワケにはいかない。 郁はその夜、朝を迎えるまで眠ることが出来なかった。 「そんなクマ作るまで、寝かせてもらえなかったわけ?」 翌日帰寮した時に言われた同居人の冷やかしは、半分当たっていて半分外れている。 寝かせてもらえなかったのは、事実だ。 しかしそれは、自分の寝顔を堂上に見られては困るから自発的に眠らなかったのであって、柴崎が期待しているような理由ではなかった。 冷やかした内容が当たっているとすれば、バカ正直な郁は間髪入れずに真っ赤になって噛み付いてくるはずなのだが、そうしてこないところを見るとどうやらクマの正体は違うところにあるらしい。 「なんか凹んでなーい?なんかあったの?」 「……う、ん……」 こんなとき、決まって柴崎は郁が話し出すのを待つことにしている。 せっついて聞くことを憚っているわけではなく、単に郁の考えが纏まるのを待っているだけだ。 「……えと」 一度は開きかけた口が、再度閉じられる。 「……やっぱ、いい……」 いくら柴崎とはいえ、どんな顔して聞けばいいのだ。 自分の寝顔がどんな風なのか、などと。 寝不足がたたっている今なら、速攻で寝ることが出来る。 その寝顔を見ててくれないかなどと、どの口が言えるのだ。 相談することを諦めた郁は、デートの為に多少お洒落した格好のまま、ベッドに潜り込んでしまった。 悩んでいる割にはすぐに寝息を立て始めたところを見ると、本当に寝不足だったことが判る。 「まーた余計な悩み背負い込んできたようねー」 郁がその乙女モード全開が故に抱え込んだ悩みは、これまで枚挙に暇が無い。 しかもそれらは大抵、他人から見ればノロケにしか聴こえないような悩みだったりする。 今回も恐らくそんなところだろう。 しかし、郁から悩みの内容を聞かない限りは、相談に乗ってやることも出来ない。 「早く白状しないと、麻子さんも助言できませんよ」 眠る郁の顔を見ながら、柴崎は小さく呟いた。 「外泊届、今日も無駄になったみたいだね」 同僚の言葉は相変わらずからかい口調ではあるが、少しずつ哀れみが混じってきているのは気のせいだろうか。 「……まったく、何を考えているんだ、アイツは」 いつもならば堂上の部屋に小牧がお邪魔をするという図式なのだが、今晩は堂上が酒を片手に小牧の部屋に愚痴をこぼしに来ていた。 堂上が預かり知らぬ所で郁が悩みを抱えた日から、3ヶ月は経とうとしている。 その間、デートはしているのだが、外泊は一切なかった。 今日はダメな日なんです。 体調が思わしくなくて。 外泊届け、出してきてないんです、柴崎に頼むのもちょっと恥ずかしいっていうか。 いろんな言い訳をされては、はぐらかされてきた。 最初のうちは仕方ないと思ってはいたし、ノリ気じゃない郁を抱くことも憚った。 だから、我慢してきた。 だが、それが3ヶ月ともなろうものなら、堂上としてもいい加減イラつくのも尤もな話だ。 「また何かやらかしたかな、俺」 小さな溜息とともに吐き出される弱音は、堂上が滅多に見せないものだ。 郁がどうして堂上を遠ざけているのかは分からないが、コイツにこんな表情をさせるのはきっと郁だけなんだろう、と小牧は密かに思った。 「笠原さんみたいな恋愛初心者には、いろんなハードルがあるんだろうね」 フォローのつもりで言ったが、小牧の言葉に堂上はうな垂れてこう呟く。 「おかしな要求などしていないはずなんだがな」 実際、郁に対して何か特別なことを望んだわけではないが、もうこうなってはその理由を郁の口から聞くことも難しいだろう。 「デートはしてるわけだから、堂上のことを嫌っているわけじゃあないんだよね」 「そう思いたいが」 苦く笑いながらビールの缶を呷って一気に飲み干し、そのアルミ缶を片手で握り潰す。 その缶はまるで、堂上の胸が潰れていることを代弁しているように見えた。 今日もお泊り断っちゃったな。 寮のベッドに潜り込んで、郁は少なからず反省してみる。 断りの言葉を言ったあとの堂上の落胆した表情は、今は一番見たくないものになっていた。 あの堂上の顔を見るくらいなら、仕事でドジ踏んでこってり叱られるほうが何十倍も楽だ。 でも、教官、ダメなんです。 あたし、まだ断るしかないんです―――。 あれから、自分なりに何か方法は無いものかとインターネットを駆使したり、休憩中に図書館の本をレファレンスしてみたりしたが、「寝顔を可愛くする方法」などという情報は得られなかった。 ―――やっぱり無理なのかな……。 なかなか答えの見つからない問題に頭を捻らせているうち、ふと柴崎のことが気になった。 隣のベッドで寝ている柴崎は、果たしてどんな寝顔なんだろか。 郁は音を立てないように気遣いながら、柴崎のベッドに近づいていきそっと覗いてみてみる。 ――て、天使が居るよ……! 柴崎の寝顔は、堂上に勝るとも劣らないものだった。 堂上の寝顔が「可愛い」と評されるなら、柴崎のそれはまさに「美しい」の一言だ。 「ちょっと!し、柴崎っ!」 郁は反射的に寝ている柴崎を、その大きな声でたたき起こしてしまっていた。 ここに最強の手本が居ると思ったら、居ても立っても居られなかったのだ。 その数週間後、寝ようと支度をしている郁の携帯にメールが着信した。 音だけで分かる、堂上からだ。 『明後日の公休、外に出る。外泊届は忘れずに出しておくように。堂上』 明後日のデートは以前から約束していたものだったので今更驚きはしないが、外泊届を念を押されるとは思っても見なかった。 また断って、堂上のあの表情を見るのは苦痛だったが、こればかりは仕方が無かった。 頼みの綱の柴崎ですら、お手上げな悩みだったのだから。 あの日、眠る柴崎を叩き起こして悩みを打ち明けたものの、けんもほろろに突っぱねられた。 「寝顔を可愛くするぅ!?……アンタそんなこと悩んでたの?!……なんつーバカな悩み……」 「だって、堂上教官の寝顔、めちゃくちゃ可愛いかったんだよ!あたし、自分で言うのもなんだけど、絶対寝顔可愛くない自信あるし」 「そんなトコに自信持たなくてもいい!」 「とにかく、なんかいい方法ないの?」 「あるわけ無いでしょ!……ったく人がいい気分で寝てたのに……」 柴崎はこれ以上付き合っていられないと、再び布団に入ってしまった。 そして結局なんの策も得られないまま、デートの当日を迎えた。 当日の待ち合わせはいつもよりも遅い時間だった。 日が傾きかけるその時間に電車を乗り継ぐと、都心まで足を伸ばした。 堂上が郁の手をつないで歩を進めた先には、最近オープンしたばかりの6ッ星ホテルがあった。 迷うことなくロビーに足を踏み入れる堂上に、手をつながれたままの郁は付いて行くしかない。 え、ちょっと、それは。 うろたえる郁をロビーに残して、堂上はチェックインに向う。 どうしよう、こんなホテルに連れて来られるなんて予想してないし。 カードキーをジャケットにしまいながら戻ってくる堂上に、郁は断る為に口を開こうとした。 が、 「今日はお前のダメな日じゃない。体調も良さそうだ。外泊届はちゃんと出してきたろうな?まあ、出して無くても小牧に電話すれば済むことだ」 先制攻撃は堂上からだった。 いつも使用していた言い訳は通用しない。 「いや、あの」 それでも食い下がろうとする郁の手を、堂上が包んだ。 「先に飯にしよう。ここのイタリアンは絶品らしいぞ」 郁に口を挟ませる余裕を与えずに、堂上はレストランへと向った。
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1スレ目 849-850 水槽の中にいるみたい。ふと目覚めて郁が最初に思ったのはそんなことだった。 あれ?ここどこ? ぱっと身体を起こす。隣に眠っているのは、堂上教官。 その瞬間、昨夜のことを思い出した。そうだ、初めてお泊りしたんだった。 同時にあんなことやこんなことをしたのも思い出し、一人で顔を赤くする。 水槽の中みたいだと思ったのは、カーテン越しの光のせいだった。朝焼けの色がカーテンを通過して、薄紫っぽい色になっている。 やっと本当に目が覚めた郁は、眠る堂上の顔をまじまじとみつめる。 普段と違う、無防備な顔。この人があたしの大好きな人なんだ。改めてそう思うと、やっぱり頬に血が上ってくる。 意外と睫毛が長い。指先で頬に触れると、すこしザラザラする。ヒゲのせいだ。 と、堂上が「ん…」という声を出し、寝返りを打った。郁の心臓が爆発しそうになる。いや、別に悪いことなんかしてないんだけど。 浴衣がはだけているせいで、昨日自分がつけた歯型が見えた。 うわー。痛いよ、これ。いったい、どれだけの時間噛んでたんだろ。 歯型に、そっと唇を当ててみる。 ごめんなさい。痛かったですよね。舐めたらすこしは治りが早い?でも起きちゃうかな。 また、堂上の身体がぴくりと動き、郁は身を縮める。だから、悪いことなんかしてないってのに! 上掛けの上に出ていた腕を中に押し込むつもりで持ち上げると、お、重い。こんなに腕って重かった?ていうか、あたし、教官の身体肩にかついだことあったよね?あれって、火事場の馬鹿力だった? 無理に肘を曲げるとやっぱり目を覚ますだろうな。あきらめて、腕をそっと下ろす。その代わりみたいに、腕と手を観察する。 腕、硬いなあ。筋肉の質がやっぱり女のあたしとは違う。 二の腕から、手首まで、そっと指先で辿ってみる。どんなに訓練しても力で互角になんかなれない。部下としては悲しむべきことかな。でも、あたしが絶対に敵わないことが嬉しくもある。 軽く曲げられた指を伸ばして、自分の手を重ねてみる。繋いだことは何度もあったのに、こうやって大きさを比べてみたことってなかったな。 背はあたしのほうが高いのに、手は教官のほうがずっと大きい。大きくて、指も太くて、長い。 いつも頭に置いてくれる手。それから、昨夜は…。だめだって!なに考えてるんだ、あたし! いちいちそんなこと想像してたら、これからまともに教官のこと見られないじゃん! はあ、とちいさくため息をつく。寝よう。教官が起きるまでこうやって眺めてるわけにもいかないし。 これでおしまい、のつもりで眠る教官の唇に、自分の唇をそっと重ねた。そして離そうとした、そのとき。 がしっと頭が押さえられ、目と目が合った。 うっそー!!起きてたぁああああ!!! 合わせたままの唇から、舌が入り込んできた。逃げられない。そのまま長く深く激しいキスを続けられる。抵抗なんてできない。 やっと唇が離されたときには、もう息が上がっている。 「い、いつから…気づいて、たん、ですか…」 「寝返り打ったときから」 「それって、ずいぶん前からじゃないですかー!!!」 真っ赤になって抗議する郁をくるんと回して背中をベッドに押し付けながら、堂上は言った。 「観察するのは楽しかったか?…じゃあ、今度は俺の番だ」 「ええええええ!?だだだだめですよっ!!!!」 「だめじゃないだろ。このままじゃ不公平だろうが」 言いながら、堂上の手は郁の浴衣の紐を解いた。そして浴衣の前を開きながら、耳元で囁く。 「今度は噛むなよ」 「か、観察するだけじゃな!…」 郁のセリフは途中で堂上に吸い取られた。 結局チェックアウトは延長してもらうことになったとか。